自力でつくった公園とバスが「住民力」の高さを示す!! (福島市)
福島市は07年に市制施行100周年を迎えた県都である。08年7月には飯野町と合併し、新しい市として生まれ変わった。
現在2期目の瀬戸孝則市長は選挙戦のときから「市民との直接対話」を公約に揚げ、当選後間もなく「福島わいわい夢会議」を開催した。02年の第1回目の会議には12人の福島市婦人教育指導員が参加。若者が住みやすいまちづくり、女性が子育てしながら働けるまちづくり、福島の緑を大切にするまちづくりなど、多くの提案が出されたという。
08年4月には「まちのおかみさん会」の8人と第65回目の会議が開催された。「まちを活性化させるために、福島以外の土地から来た人、若い人の意見ももっと聞くべきである」「店はひとつの文化だ、楽しい店がたくさんある街は活気のある街になるはずだ」「街中広場に巣鴨の刺抜き地蔵のようなシンボル的なものをつくってはどうか」などの意見が出された。市長と市民との対話が7年にわたり、65回も継続して行われているのはすばらしいことだ。今後はこれまでの提案をどう市制に反映させていくかが課題だ。
ところで、福島市の観光名所といえば花見山公園が知られている。現在は年間20万人を越える人々が訪れているそうだ。公園といわれているが、正確には個人の所有地である。持ち主の阿部一郎さんは数十年前からこの丘を耕し、花木を植え、それらを販売することを業としてきた。阿部さんは「花のすばらしさを見るにつけ、この景色を家族だけで独占していてはもったいない。もっと多くの人たちに見てもらいたい」と思うようになり公開する気になったという。一面に咲き誇る東海桜、梅、桃、ソメイヨシノ、レンギョウ、ボケ、モクレンなどまさに”お宝”である。
その花見山公園を一躍有名にしたのは、写真家の秋山庄太郎さんだった。秋山さんは取材を通して「福島に桃源郷あり」と雑誌に発表。以来、花見山公園を気に入り、毎年訪れるようになった。これが話題となって、花見山公園は全国的に有名になった。
ところで、市内にはもうひとつ「福島の桃源郷」がある。約30年前に開発された蓬莱地区だ。シルバーにやさしいまちづくりがなされているのだ。この地区の人口は約1万3000人で、そのうち65歳以上が16.6パーセント。少子高齢化がすすみ、人口が減少傾向にある地域である。住民の半数は県営住宅、市営住宅に住んでおり、残りは一戸建ての住宅に住んでいるという。
この地区で地域活性化策の一環として無料バスの運行がはじめられたのは08年6月のこと。運行主体は市民団体の蓬莱まちづくりコミュニティー『ぜぇね』。代表の小林悦子さんは「地域活性化の第一歩として、タクシー会社と契約して26人乗りの無料バスを実現させた。市民が求めるコミュニティー循環バスとは、安全なバス、細かいダイアのバス、バス停が身近にあるバス、無料で乗れるバスということだった。バスで移動することで、お年寄りは外に出て元気になるし、病院に通いやすくなる。それに地域に商業施設に買い物にも行きやすくなるし、自動車の排気ガスも減る住民には好評だ」と話す。
現在、企業の協賛金や住民の募金を主な収入源として、高齢化がすすむ約7.5平方キロメートルの団地内で3路線を走らせている。当初は3路線で1日6回の運行を目指したが、ガソリンの高騰で5回の運行になっているという。初期費用の約300万円は中心部にあるスーパーなどが出資した。今後の運行費用については、企業広告や住民の募金等でまかなっていく予定だそうだ。行政からの補助は今のところ受ける予定はないという。
今後は、「無料バスはあくまでスタート。これからは蓬莱地区全体の支援をしていきたい。とくに、福祉をさらに充実させていきたい。また、蓬莱地区には空き家が80戸ほどあるので、それを利用して訪問医療ができるような仕組みもつくっていきたい」と話している。
「地域のために」という思いが花見山公園やコミュニティーバスを誕生させた。「行政力」に頼らない「住民力」の力強さを思い知ったような気がする。
---- K.M 著 ----
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